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1 基礎編
第1章 VOCの排出と環境等への影響

1.3 健康影響等

1.3.1 VOCに関連する環境基準等

VOCについては、屋外の一般環境だけでなく、作業環境、室内環境でも影響を受けることから、様々な基準が設定されています。

(ア) 環境基準(環境基本法)

VOCについての環境基準は設定されていませんが、大気汚染防止法において、「有害大気汚染物質」("Hazardous Air Pollutants"、「HAPS」ということもあります)として、「継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがある物質で大気の汚染の原因となるもの」が定められ、VOCに該当する物質のうち、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンの環境基準が設定されています(表1.1.3.1)。

表1.1.3.1 有害大気汚染物質(ベンゼン等)に係る環境基準(環境基本法第16条第1項)
物質 環境上の条件
ベンゼン 1年平均値が0.003 mg/m³以下であること。(H9.2.4告示)
トリクロロエチレン 1年平均値が0.2 mg/m³以下であること。(H9.2.4告示)
テトラクロロエチレン 1年平均値が0.2 mg/m³以下であること。(H9.2.4告示)
ジクロロメタン 1年平均値が0.15 mg/m³以下であること。(H13.4.20告示)

(イ) 室内濃度指針値(厚生労働省)

VOCによる健康被害は、室内ではシックハウス症候群化学物質過敏症として問題となりました。厚生労働省により1996年からホルムアルデヒドに関する全国調査が行われ、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会により、1997年から2002年にかけて室内汚染物質13種について室内濃度指針値1)が定められました(表1.1.3.2)。室内濃度指針値の意味は、「現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したもの。」とされています。

また、総揮発性有機化合物(TVOC)については、室内空気質のTVOC暫定目標値が400 μg/m³ とされています。この数値は、「国内家屋の室内VOC実態調査の結果から、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値であり、室内空気質の状態の目安として利用されることが期待されています。TVOC暫定目標値は、毒性学的知見から決定したものではなく、含まれる物質の全てに健康影響が懸念されるわけではありません。また、個別のVOC指針値とは独立に扱われなければならない。」1)とされています。

表1.1.3.2 室内濃度指針値
(転載:厚生労働省、「室内濃度指針値一覧表」、2010/08/30更新、 http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/situnai/hyou.html、2011/06/06確認)
揮発性有機化合物 室内濃度指針値* 毒性指標 設定日
*両単位の換算は、25℃の場合による。
ホルムアルデヒド 100 μg/m³
(0.08ppm)
ヒト吸入暴露における鼻咽頭粘膜への刺激 1997.6.13
アセトアルデヒド 48 μg/m³
(0.03ppm)
ラットの経気道暴露における鼻腔嗅覚上皮への影響 2002.1.22
トルエン 260 μg/m³
(0.07ppm)
ヒト吸入暴露における神経行動機能及び生殖発生への影響 2000.6.26
キシレン 870 μg/m³
(0.20ppm)
妊娠ラット吸入暴露における出生児の中枢神経系発達への影響 2000.6.26
エチルベンゼン 3800 μg/m³
(0.88ppm)
マウス及びラット吸入暴露における肝臓及び腎臓への影響 2000.12.15
スチレン 220 μg/m³
(0.05ppm)
ラット吸入暴露における脳や肝臓への影響 2000.12.15
パラジクロロベンゼン 240 μg/m³(0.04ppm) ビーグル犬経口暴露における肝臓及び腎臓等への影響 2000.6.26
テトラデカン 330 μg/m³(0.04ppm) C8-C16混合物のラット経口暴露における肝臓への影響 2001.7.5
クロルピリホス 1 μg/m³(0.07ppb)小児の場合0.1 μg/m³(0.007ppb) 母ラット経口暴露における新生児の神経発達への影響及び新生児脳への形態学的影響 2000.12.15
フェノブカルブ 33 μg/m³(3.8ppb) ラットの経口暴露におけるコリンエステラーゼ活性などへの影響 2002.1.22
ダイアジノン 0.29 μg/m³(0.02ppb) ラット吸入暴露における血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性への影響 2001.7.5
フタル酸ジ-n-ブチル 220 μg/m³(0.02ppm) 母ラット経口暴露における新生児の生殖器の構造異常等の影響 2000.12.15
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 120 μg/m³(7.6ppb) ラット経口暴露における精巣への病理組織学的影響 2001.7.5

(ウ) 作業環境評価基準(労働安全衛生法)

労働安全衛生法に基づき定められた有機溶剤中毒予防規則により、同法施行令別表第6の2において、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、キシレンなど54種類の有機溶剤に対して、労働安全衛生上の対策を規定しています。また、同法第65条の2第2項の規定に基づき、作業環境評価基準の別表に管理濃度を規定しています(表1.1.3.3)。

表1.1.3.3 作業環境評価基準別表 (昭和63労働省告示第79号、抜粋)
物質の種類 管理濃度
備考 この表の下欄の値は、温度25度、1気圧の空気中における濃度を示す。
28 ベンゼン 1ppm
29の2 ホルムアルデヒド 0.1ppm
35 アセトン 500ppm
36 イソブチルアルコール 50ppm
37 イソプロピルアルコール 200ppm
38 イソペンチルアルコール(別名イソアミルアルコール) 100ppm
39 エチルエーテル 400ppm
45 キシレン 50ppm
63 ジクロルメタン(別名二塩化メチレン) 50ppm
65 スチレン 20ppm
67 テトラクロルエチレン(別名パークロルエチレン) 50ppm
70 トリクロルエチレン 10ppm
71 トルエン 20ppm
73 ノルマルヘキサン 40ppm
76 メタノール 200ppm
77 メチルイソブチルケトン 50ppm
78 メチルエチルケトン 200ppm
81 メチル-ノルマル-ブチルケトン 5ppm

1.3.2 オキシダントおよびSPM等の健康影響

VOCは、SPM及びオキシダントの生成の原因となる物質として対策が進められていますが、これらの物質の健康影響について以下に述べます。

(ア) SPM等の健康影響

SPMは、大気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径が10 μm以下のものをいいます。微小なため大気中に長期間滞留し、肺や気管などに沈着して、呼吸器に影響を及ぼすとされています。SPMの中でもディーゼル機関からの排気微粒子については、従来から発がん性が疑われていることに加え、最近、動物実験においてぜん息様の病態が認められるなどアレルギー疾患との関連が指摘されており、健康影響などへの早急な対策が求められています。

一方、浮遊粒子状物質の中でも粒径2.5 μm以下の微小粒子状物質(以下、「PM2.5」という)については、短期曝露及び長期曝露と循環器系・呼吸器系死亡、肺がん死亡及びその他の健康影響との関連に関する疫学研究から、これらの健康影響の原因の一つとなりうると結論されている2)など、一定の健康影響を及ぼしていることを示す国内外の疫学その他の分野の科学的知見が蓄積されてきました。国外ではこれらの知見により、微小粒子状物質について独立の項目として環境目標値を設定している状況があります3)。わが国では、中央環境審議会による検討結果を受け、平成21年9月9日に、微小粒子状物質に係る大気環境基準が告示されました4)

(イ) オキシダントの健康影響

大気環境のオキシダントによる健康被害としては、目の症状(チカチカする、涙が出る等)、呼吸器の症状(喉が痛い、せきが出る、息苦しい等)、更に重くなると吐き気や頭痛等の急性症状が出ることが知られています。こうした症状を予防するために、大気汚染防止法23条では、日本の大気環境基準(表1.1.3.4参照)の2倍にあたる1時間値0.12ppm以上の高濃度状況が継続するとき及び0.40ppm以上の著しい高濃度の状態が継続すると認められるときは、下記のような緊急時の措置をとることとしています。

※ 大気汚染防止法第23条(緊急時の措置)(抜粋)

都道府県知事は、(中略)政令で定める場合に該当する事態が発生したときは、その事態を一般に周知させるとともに、ばい煙を排出する者、揮発性有機化合物を排出し、若しくは飛散させる者又は自動車の使用者若しくは運転者であつて、当該大気の汚染をさらに著しくするおそれがあると認められるものに対し、ばい煙の排出量若しくは揮発性有機化合物の排出量若しくは飛散の量の減少又は自動車の運行の自主的制限について協力を求めなければならない。

2  都道府県知事は、(中略)政令で定める場合に該当する事態が発生したときは、当該事態がばい煙又は揮発性有機化合物に起因する場合にあつては、環境省令で定めるところにより、ばい煙排出者又は揮発性有機化合物排出者に対し、ばい煙量若しくはばい煙濃度又は揮発性有機化合物濃度の減少、ばい煙発生施設又は揮発性有機化合物排出施設の使用の制限その他必要な措置をとるべきことを命じ、当該事態が自動車排出ガスに起因する場合にあつては、都道府県公安委員会に対し、道路交通法の規定による措置をとるべきことを要請するものとする。

ただし、各都道府県では要綱等に基づき、警報の発令基準を独自に定めている場合があります。東京都の光化学スモッグ注意報等の発令基準5)を示します(表1.1.3.4)。

表1.1.3.4 東京都の光化学スモッグ注意報等の発令基準
(転載:東京都環境局、「光化学スモッグ注意報等の発令基準」、2008/03/12更新、http://www.ox.kankyo.metro.tokyo.jp/kijun.htm、2011/06/06確認)
発令区分 発令地域 発令基準 備考
光化学スモッグ予報 区東部、区北部、区西部、区南部、多摩北部、多摩中部、多摩西部、多摩南部の8地域 オキシダント濃度が高濃度になり光化学スモッグ注意報等が発令されると予想されるとき。
光化学スモッグ学校情報 オキシダント濃度が0.10ppm以上の状態になり、その状態が継続すると認められるとき。 学校情報は、児童・生徒の光化学スモッグによる被害を未然に防止するため、学校等に対して提供する情報
光化学スモッグ注意報 オキシダント濃度が0.12ppm以上の状態になり、その状態が継続すると認められるとき。 大気汚染防止法
光化学スモッグ警報 オキシダント濃度が0.24ppm以上の状態になり、その状態が継続すると認められるとき。 都独自

一方、最近の疫学研究において、環境基準以下の濃度であってもPM2.5などと同様、オキシダントは日々の濃度がその日あるいは前日の死亡率と関連していることが明らかにされています。すなわち、オキシダント濃度の増加に対応したその日、あるいは翌日の死亡率の増加が多くの疫学研究から確認されています6)

(ウ) オキシダントおよびSPM等の環境基準

環境基本法第16条第1項の規定により、SPM、光化学オキシダント及び微小粒子状物質の環境基準は以下のように設定されています(表1.1.3.5)。

表1.1.3.5 大気汚染に係る環境基準 (環境基本法第16条第1項)
物質 環境上の条件(設定年月日等)
備考
  • 環境基準は、工業専用地域、車道その他一般公衆が通常生活していない地域または場所については、適用しない。
  • 浮遊粒子状物質とは大気中に浮遊する粒子状物質であってその粒径が 10 μm以下のものをいう。
  • 光化学オキシダントとは、オゾン、パーオキシアセチルナイトレートその他の光化学反応により生成される酸化性物質(中性ヨウ化カリウム溶液からヨウ素を遊離するものに限り、二酸化窒素を除く) をいう。
  • 微小粒子状物質とは、大気中に浮遊する粒子状物質であって、粒径が2.5 μmの粒子を50%の割合で分離できる分粒装置を用いて、より粒径の大きい粒子を除去した後に採取される粒子をいう。
浮遊粒子状物質(SPM) 1時間値の1日平均値が0.10 mg/m³以下であり、かつ、1時間値が0.20 mg/m³以下であること。(48. 5.8告示)
光化学オキシダント(Ox) 1時間値が0.06ppm以下であること 。(48.5.8告示)
微小粒子状物質(PM2.5) 1年平均値が15 μg/m³以下であり、かつ、1日平均値が35 μg/m³以下であること。(H21.9.9告示)

コラム:
VOC, VOCs, NMHC, TVOC・・・

揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)は、いくつかの定義があります。大気汚染防止法では、「大気中に排出され、または飛散した時に気体である有機化合物」と定義されています。ただし、SPM及びオキシダントの生成の原因とならない物質は除かれます。したがって、SPMやオキシダントの原因となる有機化合物を「VOC」と定義しているといえます。

USAの文献*では、特定のVOCを想定しているときは「VOC」、一般的に言うときは「VOCs」としています。日本の有害大気汚染物質測定方法マニュアルでは「VOCs」を使っていますが、法律関係は「VOC」が一般的です。

大気汚染常時監視測定局では、オキシダント生成能が低いメタンを分離し、その他の炭化水素を測定したNMHC(非メタン炭化水素)を測定しています。NMHCは、環境大気中でのVOCの総量の表し方のひとつと考えられます。

一方、室内環境での「VOC」は、WHO(世界保健機関)により50-100℃~240-260℃の沸点の有機化合物と定義されています。また、VOCの総量を表す場合、TVOC(総揮発性有機化合物)を用います。

以上のようにVOCは測定の目的に応じて様々な定義や表現があります。

VOCは、ヒトへの健康影響が懸念されるほか、大気において光化学オキシダントや浮遊上粒子物質の前駆物質として考えられるため2006年に施行された大気汚染防止法によりその排出抑制が強く求められています。

* William P. L. Carter. "Development of ozone reactivity scales for volatile organic compounds", Journal of the Air and Waste Management Association, Vol. 44, 1994, pp. 881-899

引用文献

  1. 厚生労働省、「室内濃度指針値一覧表」、2010/08/30更新、http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/situnai/hyou.html、2011/06/06確認
  2. 中央環境審議会大気環境部会 微小粒子状物質リスク評価手法専門委員会、「微小粒子状物質の定量的リスク評価手法について」(平成20年11月)、http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=12546&hou_id=10473、2011/06/10確認
  3. 中央環境審議会 第24回大気環境部会、「資料2-1 欧米における粒子状物質に関する動向について」(平成20年4月11日)、http://www.env.go.jp/council/07air/y070-24/mat02_1.pdf、2011/06/10確認
  4. 環境省 報道発表資料、「「微小粒子状物質に係る環境基準について」(告示)について(お知らせ)」(平成21年9月9日)、http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=11546、2011/06/10確認
  5. 東京都環境局、「光化学スモッグ注意報等の発令基準」、2008/03/12更新、http://www.ox.kankyo.metro.tokyo.jp/kijun.htm、2011/06/06確認
  6. 田村憲治、松本幸雄、佐々木寛介、椿貴博、「地球温暖化と大気汚染:光化学オキシダント濃度への影響と超過死亡リスク」、地球環境、Vol.14, No.2, 2009, p.271~277
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