VOCを物理的に吸着して捕集する処理方法です。吸着材として活性炭、ゼオライト、シリカなどが使用されています。
吸着材の孔はその大きさから、直径2 nm以下をマイクロ孔(ミクロ孔)、2~50 nmをメソ孔、それ以上をマクロ孔と呼んでいます。吸着材の比表面積を大きくし、VOCを素早く吸着するのはマイクロ孔です。一方、水蒸気を多量に蓄え湿度を一定に保つ用途などにはメソ孔やマクロ孔が有効です。ガスを吸着材内部まで速やかに運ぶためにはマクロ孔が有効と言われています。一般に、活性炭はマイクロ孔からマクロ孔まで様々な径の孔を持っています。一方、ゼオライトはサイズの揃ったマイクロ孔を持っています。
工場などで多量にVOCが出る場合、高価で単一のVOCの場合は脱着後に回収されています。しかし、安価で多種のVOCが混合されている場合は、分離精製などに費用がかかるので、脱着後に廃棄されます。
活性炭は、吸着材として最も多く使用されています。活性炭は、他の吸着材に比較して安価で、高い比表面積を有する利点があります。各種VOCに対する活性炭の保持量を表1.2.3.1に示します。
活性炭の原料は、ヤシガラ、石炭(瀝青炭、無煙炭)、オイルピッチ、木材チップ、おが屑、コーヒー滓、レーヨン、アクリルニトリル、フェノール樹脂などがあります。形状は、粒状、破砕状、粉末状、繊維状、成型(ハニカム状)などがあります。活性炭の表面は基本的に疎水性です。しかし、酸処理などにより表面に酸化物をつくり、親水性を持たせることも可能です。
活性炭は原料、形状、製造方などにより、それぞれ特徴があり用途も異なります。気相のVOCを吸着する場合は、一般的に以下のようなものが使用されています。
原料: | ヤシガラ活性炭、石炭原料活性炭が多く使用されています。 |
形状: |
|
性能: | 気体浄化用の活性炭の比表面積は800~1,500 m²/g程度が一般的です。(粉末活性炭では比表面積が大きいものもあります。) |
番号 | 物質名 | 分子式 | 活性炭保持量 (重量%) |
分子量 | 沸点 (℃) |
---|---|---|---|---|---|
1 | ホルムアルデヒド | CH2O | 僅少 | 30.0 | -19.2 |
2 | メタノール(メチルアルコール) | CH4O | 2.2 | 32.0 | 64.7 |
3 | イソプロピルアルコール | C3H80 | 15.8 | 60.1 | 82.4 |
4 | アセトン | C3H6O | 7.2 | 58.1 | 56.3 |
5 | メチルエチルケトン | C4H6O | 10 | 72.1 | 79.6 |
6 | メチルイソブチルケトン | C6H12O | 20 | 100.2 | 115.8 |
7 | ベンゼン | C6H6 | 23 | 78.1 | 80.1 |
8 | トルエン | C7H8 | 25 | 92.1 | 110.8 |
9 | キシレン | C8H10 | 26 | 106.2 | 139 |
10 | トリクロロエチレン | C2HCl3 | 13 | 131.4 | 87.2 |
11 | テトラクロロエチレン | C2Cl4 | 60 | 165.9 | 121.2 |
12 | ピリジン | C5H5N | 25 | 79.1 | 115.4 |
13 | 酢酸メチル | C3H6O2 | 16 | 74.1 | 56.3 |
14 | 酢酸エチル | C4H8O2 | 19 | 88.1 | 76.8 |
15 | 酢酸ブチル | C6H12O2 | 28 | 116.2 | 126.3 |
16 | ヘキサン | C6H14 | 10.6 | 86.2 | 68.8 |
17 | スチレン | C8H8 | 22 | 104.2 | 145.8 |
18 | ジクロロメタン | CH2Cl2 | 3.2 | 84.9 | 39.8 |
19 | 1, 2-ジクロロエタン | C2H4Cl2 | 8.5 | 99.0 | 83.7 |
20 | 塩化ビニルモノマ | C2H3Cl | 40 | 62.5 | -13.9 |
無機系吸着材としては、ゼオライトとシリカが使用されています。活性炭と比較すると、高価ですが、不燃性で脱着時に高温にすることが可能です。また、一般的には、脱着後に残留するVOCの量が活性炭の場合より少なくなります。
高分子のVOC吸着材は、スチレン(PS)-ジビニルベンゼン(DVB)共重合物で製造されるGC分離剤やイオン交換樹脂の発展として開発されました。多くの樹脂系吸着材は疎水性であり、気相のVOC吸着のほか汚染地下水などに含まれるジクロロエタン、トリハロメタンなどの吸着に使用されています。
高分子吸着材を使用した気中のVOC処理装置としては、スウェーデンのChematur Engineering AB 社のPOLYADプロセス技術が有名で、我が国でも主として塗装工場におけるVOC、溶剤ガス処理装置として技術導入され製造販売されました(1999年)。吸着塔は高分子吸着材(Bonopore 1120)を充填した流動床方式*注であり、吸着材は脱着塔で加熱再生され、吸着塔に循環されます。現在は、国内では製造されていません。
*注:流動床(fluid bed)とは、吸着と脱着のために吸着材そのものを流すように動かす方式で、吸着材には擦れても破損しないなどの性質が必要です。それに対して、固定床(fixed bed)では、吸着材は床(bed)に固定されて使用されます。
高分子吸着材として、活性炭の代わりに使用することを目的に開発されたのが、The Dow Chemical CompanyのDOWEX™ OPTIPORE™シリーズです。これは現在も入手可能であり、そのうちの3種類の特性を表1.2.3.2に示します。
名称 | BET比表面積 (m²/g) |
密度 (g/cc) |
メッシュ又は粒径 | クラッシュ強さ(g/粒) | 有孔率(cc/g) | 平均孔サイズ(A) | 用途 |
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V493 | >1100 | 0.34 | 20/50 | >500 | 1.16 | 46 | 気体、流動床 |
V503 | >1100 | 0.34 | 1000 μm | >1000 | 0.94 | 34 | 気体、固定床 |
V493 | >1100 | 0.62 | 20/50 | >500 | 1.16 | 46 | 液体 |