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1 基礎編
第5章 対策技術導入による環境影響軽減効果の評価

事業所からの排出ガスによる環境影響を考えた場合、主にVOCとCO2が挙げられます。本章では、これらの物質を中心に、事業所における環境影響軽減の考え方を整理します。

5.1 事業所単位で考える環境影響軽減法

事業所における環境影響を定量的に評価するためには、製品製造に関わる原料の購入、使用から、廃棄に至るまでの環境・安全・健康負荷を配慮したライフサイクルアセスメント(LCA)という手法を用います。LCAの目標は、製品の品質を保ちつつ、エネルギーの消費量や二酸化炭素の排出量、VOCの排出量を軽減することにあります。本章では、様々なVOC軽減技術の導入による排出VOCの環境影響軽減効果を評価するために、製品を製造する際の消費エネルギー、VOC使用量、これらの排出に伴う環境負荷量を下記に示したISO-LCA手法のうち1)のうち①~④を参考にして評価します。

ISO-LCAの実施手順
  • ① 調査範囲と目的の設定(シナリオの作成)
  • ② インベントリ分析(環境負荷の定量化と集計・分析)
  • ③ インパクト評価(環境影響の定量化と評価)
  • ④ 結果の解釈(分析・評価の考察)
  • ⑤ 報告書の作成
  • ⑥ クリティカルレビュー(ISO-LCAとしての適合性チェック)
ステップ1: 目的と調査範囲

製品製造のための材料購入から製品完成までの環境負荷軽減効果を評価します。

ステップ2: 環境負荷分析

環境負荷の程度を事業所単位で分析する場合、最初に行わなければならないのは、現在の製品製造における入口と出口の状況を数値として明らかにすることです。そのためにインプットデータとアウトプットデータの項目を明らかにし、精査します。インプットデータには、使用されるエネルギー、水資源、化学物質の使用量等を、アウトプットデータには大気や水域への排出物、廃棄物などを挙げることができます(図1.5.1.1参照)。

図1.5.1.1 製品製造における環境負荷の評価項目

・インプットデータ

ここで使用されるエネルギーとは、製品製造、VOC処理装置及びその稼働に関わるエネルギーを指します。それぞれのエネルギーは、環境省より公表されている二酸化炭素排出係数2)を用いてCO2排出量に換算し、アウトプットデータにあるCO2排出量と統合化して評価されます。

塗料・溶剤の購入量のうちPRTR対象物質は、化学物質排出把握管理促進法により購入及び排出量に関する報告義務があります。また、塗料には、溶剤型塗料の他、水性塗料、粉体塗料など、印刷インキにも油性、植物油性、水性などがあり、それぞれVOC排出量が大きく異なります。一般には、顔料などの固形分以外は全て気中に排出されるものとされます。

・アウトプットデータ

CO2排出量には、全工程におけるエネルギー消費により発生するものが挙げられます。平成21年度東京電力の二酸化炭素排出係数は0.000384t-CO2/kWh2)と報告されています。その他VOC処理装置によるVOC及び補助燃料の分解・燃焼に伴って発生するCO2が含まれます。エネルギー源、燃料の種類によってコスト及びCO2排出量が異なるので、装置に適したものを選ぶ必要があります(基礎編第2章2.5及び塗装編第5章5.3参照)

無機ガス排出量には、製品製造及びVOC処理工程において生成するCO2以外の無機ガスが含まれます。

VOC排出量は、排気ダクト及び作業環境のVOC濃度を測定することにより得られますが、大まかには、スプレー塗装の場合、塗料のおよそ半分の重量のVOCが排気されると考えられます(2塗装編第4章4.3.2参照)。工程別には、塗装段階において約70%、乾燥段階において約30%のVOCが排出されます(2塗装編第1章1.1.2(エ)参照)。また、ここでは報告義務のあるPRTR対象物質の排出量を把握する必要があります。

産業廃棄物量には、爆発性・毒性・感染性を有する特別管理産業廃棄物、塗料が固形化した廃棄物、塗料を含んだ水溶液などの廃棄物などが含まれます。また、溶剤の購入量から廃棄物として排出された量を差し引いた量が環境へ排出された量として考えることが出来ます。

ステップ3: 環境影響評価

ここでは、アウトプットデータをもとに環境に与える影響を評価します。評価項目には、地球温暖化、酸性化、光化学オキシダント生成、粒子生成、人間毒性、また地域住民に対する社会的責任として悪臭物質に対する評価も必要になります(第1章1.3参照)。

地球温暖化
地球温暖化を進行させる温室効果ガスの排出量。代表的な温室効果ガスであるCO2との相対値で示したGWP(Global Warming Potential、地球温暖化係数)の100年値を用いて評価を行う。
酸性化
排出に伴い雨が酸性化するなどの問題を生じさせるNOxやSOxの排出量。H+イオンの相当数をSO2との相対値で示したAcidification Potential(AP)を用いて評価を行う。
光化学オキシダント
窒素酸化物や炭化水素類などの一次汚染物質が、太陽光線中の紫外線を受けて光化学反応を起こして発生する物質。光化学スモッグの原因物質である。健康や植物等に有害である。排出量を変化させたときのオゾン濃度の変化をC2H4との相対値で示したPhotochemical Ozone Creation Potential (POCP)や単位VOC量が生成しうるオゾン量を示す最大オゾン生成(Maximum Incremental Reactivity: MIR)(第4章4.1.2参照)を用いて評価を行う。
粒子生成
気中のVOCが化学反応によってより蒸気圧が低い物質を生成し、凝集して粒子化、または他の大気エアロゾル表面に吸着する可能性のある物質量。これまで大気で扱われてきたSPMの他、さらに微小な粒子についても評価が必要。(第1章1.3.2及び第4章4.2参照
人間毒性
人体に有害な物質の排出によって、健康影響を受ける。多くの指標が存在するが、最もデータの多く集まったTLV-TWAの逆数を用いて評価を行う。
悪臭物質生成
乾燥過程などVOCの酸化分解などによって悪臭物質が生成する。機器分析によって物質が同定されるものもあるが、未同定のものも多数ある。3点比較式臭袋法などにより臭気指数を測定し、指標とする。(第4章4.4参照

これらの環境負荷項目を統合化して環境影響を評価するために、Eco-indicator 99LIME (Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)などの手法が開発されていますが、多くの事業所では、地球温暖化対策としてCO2排出量、環境負荷物質としてVOC、PRTR、NOx、SOx、産業廃棄物の排出量を個々に示して環境影響の指標としています。

排出される化学物質については、その排出量が重要となるため、大風量排気により低濃度のVOCが多量に排出される場合も高濃度のVOCが排出される場合と同様の環境負荷があると考え総量としてのVOC排出量を評価する必要があります。また、個々の化学物質について光化学オキシダント生成能や粒子生成能、人間毒性や悪臭などの特性を把握する必要があります。特に後述するVOC処理装置を用いた場合、ターゲット物質と処理後に発生する物質の特性を比較して、環境に対する改善効果を評価する必要があります。

ステップ4: 結果の解釈

ここでは、アウトプットデータで示した環境負荷から評価した環境影響に対して、それぞれの製品製造工程における環境負荷を調査し、工程に沿った環境影響低減対策の提案を行います。具体的な対策は次の項で述べますが、各事業所に適した対策を選定するためには、図1.5.1.2に示したように、環境影響だけでなく、製品の品質など多方面からの検討が必要です。ここでなされた検討結果をインプットデータにフィードバックし、事業所経営全体の成果として表現する必要があります。東京都では、「基礎編第6章 VOC削減への取組」で述べられているVOC対策アドバイザーなど公的な機関に依頼し改善対策のアドバイスを受けることができます。また、塗装における対策については、「塗装編第4章 工程改善によるVOC削減の手法」でも詳しく述べられています。

図1.5.1.2 環境影響低減手法選定のための検討項目

環境影響低減対策の効果を評価するためには、ステップ3で述べたLIMEなどを用いた環境影響評価を行う必要がありますが、多くの企業では、地球温暖化物質としてCO2排出量、トルエンなどのVOC排出量、PRTR対象物質取扱量などの経年変化を示して低減効果の評価を行っています。図1.5.1.3に自動車製造における環境影響低減対策の効果としてCO2排出量の推移を示します。

CO2排出量を売上高で割った売上高原単位あるいは、CO2排出量を企業物価指数により補正した実質売上高で割った実質売上高原単位をCO2排出削減の管理指標とすることにより、事業所経営に即した評価を行うことができます。

図1.5.1.3 自動車製造におけるCO2排出量の推移
(転載:スズキ株式会社、「スズキ環境・社会レポート2010」、2010、p.38、http://www.suzuki.co.jp/about/csr/report/2010/pdf/2010_envj_03_03_01.pdf、2011/06/20確認)

一方、製品の価値(売上や製品の機能)をその提供に伴う環境負荷で割った環境効率という指標を用いて、製品の価値を示す概念があります。しかし業種により価値の定義や環境負荷の計算式が異なるため、その統一的指標の開発が急がれています。

引用文献

  1. 稲葉敦監修、「LCAの実務」、(社)産業環境管理協会、2005、p.239
  2. 環境省、「平成21年度の電気事業者ごとの実排出係数・調整後排出係数等の公表について(お知らせ)」、環境省ホームページ、2010/12/27更新、http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13319、2011/06/20確認
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