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2 塗装編
第1章 工場内塗装におけるVOC排出の測定と実態

1.2 塗装工程のVOCの発生要因

塗装工程において発生するVOCは、直接的には塗料や塗料に含まれる溶剤の組成に起因しますが、発生する箇所は塗装工程に伴う塗装設備や塗装機器などの装置に関連します。

1.2.1 塗料に関わる発生要因

VOCの発生要因のうち塗料に係わるものとして図2.1.2.1の①、②が考えられます。①は樹脂、溶剤、添加剤などの原材料で、もともと塗料に含まれる物質が原因となる場合であり、主に塗装ブースやセッティングゾーンから発生します。②は塗料組成が変化してVOCを発生する場合であり、乾燥炉内で塗料中の低分子物質などが高温により酸化され、焦げ臭を伴うVOCが発生します1)。これらの中でも、溶剤に起因するVOCが発生要因の多くを占めると考えられ、工業用塗料には表2.1.2.1示したように塗料の種類によって異なる複数の溶剤成分が含まれています2)

図2.1.2.1 塗料に関わるVOC成分
(引用:塗料・塗装機器研究会、「塗装工場における悪臭防止ハンドブック」、(社)日本塗料工業会,日本塗装機械工業会、1995、pp.29-31)

表2.1.2.1 塗装工場で使用される主な塗料と有機溶剤
(引用:日本塗装機械工業会技術部会、「新しい塗装実務ハンドブック入門編」、日本塗装機械工業会、2000、p.131)
塗料の種類 主な有機溶剤
ラッカー トルエン、キシレン、メタノール、IPA、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、MIBK、セロソルブ類
ウレタン樹脂系 トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、MEK
エポキシ樹脂系 トルエン、キシレン、IPA、MIBK、セロソルブ類
アミノアルキッド樹脂系(メラミン) トルエン、キシレン、メタノール、ブタノール、酢酸ブチル
アクリル樹脂系 トルエン、キシレン、イソブタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、MIBK、シクロヘキサノン、石油系混合溶剤
水溶性樹脂系 IPA、ブタノール、ブチルセロソルブ

1.2.2 塗装工程別の発生要因

VOCを発生する場所や発生量は、施設の設備、塗装条件などによって異なりますが、主な工程は塗布工程、セッティング工程、乾燥工程です(図2.1.2.2)。

図2.1.2.2 塗装工場からのVOC排出のモデル

(ア) 塗布工程

塗料を塗布する方法には、ロールコーティングやフローコーティングのような塗料をそのままの状態で被塗物へ移行する方法(バルク塗布)と、塗料を一度「霧」にして移行する方法(スプレー塗布)があります。工場の塗装施設で行われる各種の塗装方法を表2.1.2.2に示します。また、それらのうち代表的な塗装方法を図2.1.2.3~図2.1.2.7に示します。

表2.1.2.2 各種の塗装方法
(引用:技術委員会/塗料・塗装機部会、「工業塗装ラインにおける塗装・塗料管理ハンドブック」、(社)日本塗料工業会、2002、p.95)
対象塗料 塗布形態 手段及び道具 塗装方法及び塗装機器
液状塗料 バルク塗布
(塗料をそのままの状態で被塗物へ移行する)
浸せき付着 浸せき塗り(ディッピング)
電解付着 電着塗装
スリットから流す フローコート
ロールコーター ロールコート
スプレー塗布
(塗料を一度「霧」にして移行する)
圧縮空気による微粒化 エアスプレー
液圧による微粒化 エアレススプレー
遠心、静電、空気、液圧による微粒化 静電塗装
粉体塗料 バルク塗布 溶融により被塗面につける 流動浸せき塗装
スプレー塗布 空気・静電気により被塗面につける 静電粉体塗装

図2.1.2.3 電着塗装の構成例
(転載:(社)日本塗料工業会、「日本の塗料工業’03」、2003、p.20)

図2.1.2.4 フローコーターの構成例
(転載:(社)日本塗料工業会、「日本の塗料工業’03」、2003、p.20)

図2.1.2.5 スプレーガンの各塗料供給方式

図2.1.2.6 液体静電塗装機の構成例
(転載:(社)日本塗料工業会、「日本の塗料工業’03」、2003、p20)

図2.1.2.7 粉体静電塗装機の構成例
(転載:(社)日本塗料工業会、「日本の塗料工業’03」、2003、p20)

これら塗布工程から発生するVOCは、強制排気ダクト及び塗装ブースダクトから排出されます。塗装ブースは、スプレー塗装作業によって発生する作業場の浮遊塗料ミストを捕集し、VOCを含んだガスを強制排出する装置で、乾式・湿式、給気装置付など目的に応じて各種あります(図2.1.2.8、図2.1.2.9)。

図2.1.2.8 塗装ブースの種類
(引用:日本塗装機械工業会技術部会、「新しい塗装実務ハンドブック入門編」、日本塗装機械工業会、2000、pp.59-63)

図2.1.2.9 塗装ブースの一例

ロールコーティング用排気ダクトとスプレー塗装におけるブースダクトから排出されるVOC濃度の変化例を図2.1.2.10に示します。ロールコーティングの排出パターンは、一定の変動幅の中で短い周期の濃度変化をするのに対し、スプレー塗装は短い周期の中で変動幅が大きく、周期や変動幅そのものも変わりやすく、被塗物や塗料が変わることによりVOC濃度の波形や最大値が変化し、排出量も異なります3)。工業塗装の分野ではスプレー方式での塗布が最も一般的で、溶剤に起因するVOCの多くは塗装ブースから発生するものと考えられ、VOC発生量の大小、工程内のVOC発生割合は、塗料中の揮発成分量、塗装時の塗着効率、給排気条件などによって変化します。

図2.1.2.10 塗布工程のVOC排出濃度パターン(例)
(転載:木下稔夫、「改正大防法の概要と木材塗装工場のVOC対策について」、第17回木材塗装ゼミナールテキスト、木材塗装研究会、2006、p.12)

(イ) セッティング工程

セッティングは塗料が被塗物に付着した後、レベリングしながらある程度塗料中の溶剤を揮発させる工程で、その時間は塗料の種類、塗装条件、塗装設備、被塗物の形状などによって異なります。ラインの焼付塗装の場合は通常3~6分程度で、常温や予備加熱をする場合もあります。バッチ式塗装の場合は、塗装室内の乾燥用棚か乾燥炉を加熱しない状態で被塗物を放置します。セッティングゾーンから揮発する溶剤量は、使用する溶剤の蒸発速度やセッティングの時間によって異なります。

(ウ) 乾燥工程

塗膜の乾燥硬化方法は、熱を加える加熱乾燥と紫外線、電子線などの特殊なエネルギーを用いる硬化に大別されます(図2.1.2.11)。焼付乾燥炉の排気口からは、塗料中の残留溶剤、一部の添加剤、樹脂モノマー、未反応物の熱分解生成物、更に樹脂の反応生成物や酸化物が複雑に混ざり合い、焦げ臭を伴うVOCが発生します。発生する悪臭物質の種類と量は、塗料、溶剤、添加剤の種類、塗装方法並びに乾燥条件によって異なりますが、まず低沸点溶剤が揮発し、次に、中、高沸点溶剤(表2.1.2.3)に続いて熱分解生成物やその酸化物が発生します1)

図2.1.2.11 塗膜の乾燥方式の種類
(引用:日本塗装機械工業会技術部会、「新しい塗装実務ハンドブック入門編」、日本塗装機械工業会、2000、pp.64-69)

表2.1.2.3 塗装工場で使用される主な塗料用有機溶剤の沸点
分類 溶剤名
低沸点溶剤
(沸点100℃未満)
メタノール(64~66℃)、酢酸エチル(70~85℃)、MEK(79~97℃)、IPA(81~97℃)
中沸点溶剤
(沸点100~150℃)
イソブタノール(106~109℃)、トルエン(110~112℃)、MIBK(114~117℃)、n-ブタノール(115~120℃)、酢酸n-ブチル(115~132℃)、エチルセロソルブ(130~138℃)、キシレン(138~142℃)
高沸点溶剤
(沸点150℃以上)
シクロヘキサノン(150~162℃)、ブチルセロソルブ(166~173℃)

(エ)工業塗装ラインの工程別VOC発生状況

工業塗装ラインにおいて、塗装加工は一般的に塗料調合→塗装→セッティング→乾燥の工程順で進められますが、それぞれのVOC発生量は、図2.1.2.12のようになります1)。また、このほか、器具の洗浄や溶剤の保管時にも、VOCが発生します。

図2.1.2.12 金属塗装ラインの工程別VOC発生状況
(転載:塗料・塗装機器研究会、「塗装工場における悪臭防止ハンドブック」、(社)日本塗料工業会,日本塗装機械工業会、1995、pp.29-31)

引用文献

  1. 塗料・塗装機器研究会、「塗装工場における悪臭防止ハンドブック」、(社)日本塗料工業会,日本塗装機械工業会、1995、pp.29-31
  2. 日本塗装機械工業会技術部会、「新しい塗装実務ハンドブック入門編」、日本塗装機械工業会、2000、p.131
  3. 木下稔夫、「改正大防法の概要と木材塗装工場のVOC対策について」、第17回木材塗装ゼミナールテキスト、木材塗装研究会、2006、p.12
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