塗装工程におけるVOCの排出実態について、工場塗装で最も多く用いられるスプレー塗装を例に、調査した事例を紹介します。
図2.1.3.1及び図2.1.3.2のように、塗装ブースや乾燥炉の排気ダクトからテフロンチューブを介してVOC濃度の連続測定と、VOCをサンプリングし、基礎編 第3章3.1の方法でVOCの分析を行いました。また、使用した塗料も、ヘッドスペースガスについて分析しました。
図 2.1.3.1 スプレー塗布工程における塗装ブースからの排ガス測定構成図
図 2.1.3.2 セッティング、乾燥工程における乾燥炉からの排ガス測定構成図
塗装工程によるVOC濃度の変化は、図2.1.3.3~2.1.3.5のようになります1)。この実験は、実際の塗装ブース及び乾燥炉を用いて塗装工程をシミュレートし、発生したTVOCの濃度変化をFIDで測定した結果です。
図 2.1.3.3 バッチ式塗装時のVOC濃度変化(メラミン樹脂塗料使用時)
図 2.1.3.4 バッチ式塗装時のVOC濃度変化(熱硬化性アクリル樹脂塗料使用時)
図 2.1.3.5 バッチ式塗装時のVOC濃度変化(エポキシ樹脂塗料使用時)
VOC濃度は、塗装ブースでは、スプレー作業により平板を1枚塗装するごとに上昇と下降を繰り返しました。一方乾燥炉では、被塗物をセッティングしている間に徐々に上昇し、扉を閉めると炉内が密閉されて急上昇しました。その後、ダクトからの排気により速やかに減衰し、設定温度付近で再び上昇しました。
表2.1.3.1に、各種塗料の塗装工程におけるVOC排出状況をまとめました。VOC濃度の平均値は、塗装工程では70~106ppmC、セッティング・乾燥工程では、260~393ppmCとなり、最大値は、塗装工程では226~389ppmC、セッティング・乾燥工程では、743~1310ppmCとなりました。塗装工程とセッティング・乾燥工程を比較すると、平均値、最大値ともに乾燥工程のほうが塗装工程よりも3~4倍高い値となりました。また、平均値と最大値を比較すると、塗装工程、セッティング・乾燥工程どちらも最大値のほうが平均値よりも3~4倍高い値となっています。これらの値は、塗料中の揮発成分量、塗装時の塗着効率、ダクト排ガス量によって変わる値なので一概には言えませんが、処理装置を設計するにあたって参考になります。例えば、乾燥炉での最大濃度は、塗料成分の爆発下限界値と比べると充分に低いため、ダクト排ガス量を下げることができる可能性があります。排ガス量を低く設定することで、乾燥炉及び処理装置の消費エネルギーを低く抑えることができます。乾燥炉用処理装置のガス量と濃度の考え方については、「5.5 塗装乾燥炉用処理装置の研究開発事例」を参照してください。
VOC濃度と排ガス量、計測時間から求めたVOC排出量の排出比は、塗装工程が76~77%、セッティング・乾燥工程が23~24%となり、図2.1.2.12 金属塗装ラインの工程別VOC発生状況と概ね一致した結果となっていることが分かります。
表2.1.3.1 各種塗料の塗装工程におけるVOC排出状況
図2.1.3.6~2.1.3.8に、図2.1.2.1で示した塗装実験における各塗装工程でのVOC成分濃度と組成比を示しました。測定は、第3章3.1.2の方法で行っています。VOC成分は、塗装時(①)には塗料からの揮発成分と同様の傾向を示していますが、乾燥時(②、③、④)にホルムアルデヒドの割合が増加しています。ホルムアルデヒドは、国際癌研究機関(IARC)により"ヒトに発がん性がある"に分類され(第4章 表1.4.3.3参照)、労働安全衛生法による作業場の管理濃度基準は0.1ppmです(第1章 表1.1.3.3参照)。このことから、乾燥炉付近では、作業者はホルムアルデヒドに曝露しないよう適切な防護をする必要がある場合があるといえます。また、乾燥の設定温度に達した時に、酸化反応生成物と考えられるアルデヒド類も検出されました。これらは嗅覚閾値が低いことから、悪臭の原因となる可能性があります。臭気に関しては塗装編第2章を参照してください。
図2.1.3.6 塗装工程ごとのVOC成分濃度と組成比(メラミン樹脂塗料使用時)
①塗装時、②被塗物セッティング時、③乾燥開始時、④設定温度(130℃)時
図2.1.3.7 塗装工程ごとのVOC成分濃度と組成比(熱硬化性アクリル樹脂塗料使用時)
①塗装時、②被塗物セッティング時、③乾燥開始時、④設定温度(130℃)時
図2.1.3.8 塗装工程ごとのVOC成分濃度と組成比(エポキシ樹脂塗料使用時)
①塗装時、②被塗物セッティング時、③乾燥開始時、④設定温度(130℃)時